ウペペサンケ山

登り損ねた山(ウペペサンケ山)

登山が出来なくなった今になって、登り損ねたと思う山がある。東大雪のウペペサンケ(1884m)山だ。日本中の山すべてを登ることなど不可能なはずなのに、今さら未練がましく"登り損ねた"というには理由がある。

ウペペサンケ山(十勝三股から)

かつて北見に住んでいたころ、常呂川上流の置戸の奥の方向にクマネシリ山塊を眺めることができた。あの山の向こうには大雪山の大きな山並みがあるのだろうけれど、実際のところどうなっているのだろうかと、"山の彼方"に関心を持ち、地図を広げて、そこには大きなカルデラのような地形があり、その西側の壁のようなところにニペソツ山、丸山、ウペペサンケ山と魅力的な山が並んでいることを知った。

そのときに、"これはいつか是非とも登らなくては"と思った。もう60年も前のことだ。しかし、学校を卒業して社会に出ると、昭和の高度成長期を仕事人間として生き抜くことに精いっぱいで、趣味に割く時間はわずかなものになってしまった。それでもたった一度、この山にトライする機会があったが途中敗退に終わり、リベンジがかなわないまま登山人生を終えてしまった。山にもっと情熱をもって望んでいれば、こんな結果には終わらなかったのだろうが、しかし、これも間違いなく自分の「選択」の結果だ。

そのウペペサンケ山に登ろうとしたのは昭和から平成に変るころで、35年くらい前になる。

co1399にて(1995年頃)

そのときは、糠平温泉側からの登山を計画した。気象条件などすべての条件が良く、自分にとっての初登頂になるはずだった。しかし、登山を開始して1時間半くらい、高低差250mの急登を経て1399mピークで休憩したとき、靴のソールの剥離に気づいた。そのままというわけにいかず、持参していた紐類で何とか固定することはできたが、前途をあきらめざるを得なかった。履き慣れた登山靴を信頼して事前の点検を怠ったことを悔やんだ。その後の登山では、ガムテープや針金、細引き、スリングなど、緊急用の装備をコンパクトに収納して必ず持参するようになった。

co1399はウペペサンケ山に続く稜線には違いないが、行く手のピークを二つ越えなければウペペサンケ山本体に取りついたとはいえない。厳密には途中までも登ったことにはならないのだ。1399mピークでしばし休憩し、再トライすることを期して下山した。

ところが、その後の自分を取り巻く環境が大きく変化する中、登山から遠ざかることが多く、このウペペサンケ山に登る機会はめぐってこなかった。

そうこうしているうちに、2016年、連続台風が北海道に上陸し、東大雪地区の林道はほぼ壊滅してしまった。車両通行止めということは、登山口まで数キロメートルの崩壊した林道を歩かなければならない。頂上までの歩行距離が延びた結果、日帰りが困難な山になってしまった。そして登山者が減った山は荒れて、登山道が薮に覆われてしまい、悪循環が始まった。さらに、2019年からのコロナ禍、林道と登山道は増々荒廃し、開拓時代以来いまだかつてなかった状況になっている。いまさらだが2016年以前にトライしていればよかったのだ。

たまたま2016年8月14日、カムイエクウチカウシ山から下山しているが、ゴール寸前の札内川ダム付近で風の状況がおかしく、接近している台風の兆候と理解した。その後台風は17日に襟裳岬付近に上陸している。結果からすると、少ない山行の機会にウペペよりもカムエクをとったということになってしまった。

改めて当時の写真を見ると、ニッカボッカにロングソックス...山と較べて人間の時間は速く短かすぎる。

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