カムエクを撮るために

カムエクを撮るために

カムエクを撮りたいと思うようになった動機は、山名の由来を知りたくてネットで検索した時のこと、たまたま目にしたカムエクの写真に惹かれたことからだ。その写真から、まだまだ撮りようのある山として素材の良さに可能性を感じ、自分で撮ってみようという気になった。

見つけた写真から、おおよその撮影場所は検討ついたので、実際に地図上で確認し、カシミールや Google Earth でも確認した。

ネットで見つけた写真と同一の場所ではないが、私が選んだ場所はカムエクから直線距離で約 46Km、構図的に最適な画角は約6度、フルサイズでは約 400mm のレンズということになる。手持ちのレンズは最長 200mm なので、撮影後に画面を4分の1にトリミングすることになる。カメラは 3600 万画素なので、出来上がり 900 万画素、パソコンの画面で見る分には十分すぎるサイズで、A4 程度なら印刷も可能だと思う。

思い立ってから半年後にやっと下の写真が撮れた。

中札内付近から

さて、この写真が撮れると、もっと近い位置からカムエクの魅力を引き出した写真を撮りたいと思うのが人情というもの。上の作品のように新雪がアクセントになったのも良いと思うが、本当に撮りたいのは日没前後と夜明け前後の写真だ。つまり、その場所に泊まり込む必要がある。

地図とにらめっこして思案した結果、撮影ポイントとして次の3箇所を選んだ。

・札内川左岸の尾根

・ピラミッド峰

・1917m 峰

それぞれの場所について、検討した経緯と自分なりの考え方を以下に書き留めることとしたい。

札内川左岸の尾根

最初の「札内川左岸の尾根」だが、これは八ノ沢が比較的直線的に八ノ沢カールに向かって突き上げているため、その八ノ沢を前景として奥にカムエクを配置し、左側にピラミッド峰を入れて画面構成する。

札内川の八ノ沢の対岸はいくつかの起伏を経て十勝幌尻岳に至る尾根筋があるが夏道はない。八ノ沢の手前の仲ノ沢の対岸あたりから北に突き上げる尾根は5月下旬であればカムエクのピークに沈む日没の写真が撮れると思う。しかし、傾斜はかなりきつく、ここを登るのは難易度が高いように思える。

次に、八ノ沢出合いの対岸付近から標高差 230m ほど登って尾根に出て、Co1232、Co1435 を経て 1628.4 三角点に至る尾根筋のどこかで撮るのがベストと思われ、カムエク~1628.4 三角点間の直線距離が約6km、構図的に 21 度くらいの画角が良いと思う。フルサイズのレンズでは焦点距離 105mm 程度になる。Co1232 だと 4.5Km、30 度となり、80mm レンズとなる。

Co1232 から 1628.4 三角点までは直線距離で約 1.6km あり、どこが最適な撮影ポイントか事前に把握したいところだが、自分のパソコンのメモリ不足でカシミールのシミュレーションがうまくできない。現地で標高を上げていきながら見極めるしかないと思う。

80~105mm は好みの画角で、写真的にはいい感じだが、問題はこの尾根に登るのが大変なことで、当然ながら積雪期になるため、その時期を見極めることが必要になる。

難易度が比較的低くなるのは残雪期だが、それでも八ノ沢までのアプローチと渡渉が可能かどうか、さらには残雪期の尾根でのテント泊という未経験な行動など、自分にとってかなりハードルが高い撮影山行になると思われる。もしトライするとなれば、偵察行や訓練などを含めた周到な段階を踏む必要があり、それなりの期間も必要になる。この尾根筋では1年を通してカムエクピークに沈む日は撮れない。

八の沢対岸の尾根

ピラミッド峰

次のピラミッド峰については、カムエクに登った経験があるためコース自体に不安はあまりないものの、ピラミッド峰の頂上でテント泊が可能なものかどうか、情報を探してみても明確な答えは見つからない。それなりのスペースはありそうなのでツェルト泊を覚悟して行けばなんとかなるかなというのが現時点で分かることだ。

ピラミッド峰はカムエクに近いため、カムエクの細部のディテールを捉えることと、タイミングとして夜明け前後が勝負になると思われる。画角は約 60度、フルサイズで 35mm レンズが適切と思われる。山の写真としてはこれくらいの画角の方が一般的なようだ。

1月下旬であれば、カムエクのピークに日が沈むところを撮ることができる。そんな時期にピラミッド峰まで登ることは自分にはできないが。

1917m峰

3つ目の 1917m 峰だが、迫力あるカムエク北面は既に注目されており、ここを見たいというのが縦走の動機のひとつになっている登山者もいるようだ。カムエク北面に深く刻まれた沢は北面に回り込むほど迫力ある姿を見せている。そのためカムエクを北の縦走路から撮るには最も西側に振れた 1917m 峰付近がベストなように思う。さらに正面で捉えるのと撮影ポイントの高度を少し下げるためには 1917m 峰の西に張り出た尾根を少し下るといいかもしれない。GoogleEarth  や地理院の写真で確認した範囲では地形的に行けない場所ではないように思う。まずは残雪期を狙うことになるのだろうがしかし一気にそこまでを射程範囲に入れることには無理がある。

撮影ポイントの範囲としては 1917m 峰頂上のほか、1917m 峰から 1732 コルに至る途中のコブ Co1770 付近までの縦走路が高度が少し下がるため、カムエクの高度感を出せると思う。ただし、構図的には 1903 分岐の尾根の出っ張りが画面左側に入るという制約がある。

1917m 峰からカムエクを撮るには画角約 26 度となり、フルサイズのレンズでは 95mm 程度、同じく Co1770 からは画角 31 度、フルサイズのレンズで約 80mm となる。これも私にとっては魅力的な焦点距離だ。

この 1917m 峰に登るルートはいくつかある。

・カムエク頂上から縦走路を往復する

・九ノ沢から 1732 コルを経由する

・十の沢から稜線に出て春別岳経由で稜線を南下する

・エサオマントッタベツ川から札内 JP 経由の縦走コースで南下する

カムエクの北側から

☆カムエク頂上から縦走路を往復する

このルートは、自分にとっては最も安全なルートで、カムエク頂上から 1917m 峰までおおよそ5時間程度と思われ、1917m 峰頂上でツェルト泊、翌日カムエク方向に戻るというプランが考えられる。1917m 峰頂上には快適とはいい難いようだがとりあえずテントを張るスペースがあるようだ。落日と夜明けのカムエクを存分に撮ることが出来るだろう(気象条件次第でそう甘くはないのだが)。

戻りは 1917m 峰から八ノ沢出合いまで一気に降りることは無理なので、途中でテン泊することになる。そうなると普通は八ノ沢カールなのだが撮影条件を考えるとピラミッド峰頂上にしたいところだ。そう、カムエクのモルゲンロートが狙いだ。水の補給のため、いったん八の沢カールまで降りることになる。

☆九ノ沢から 1732 コルを経由する

せっかく 1917m 峰を目指すのであれば、九ノ沢から登り八ノ沢に降りるというプランの方がむしろ自然なのかもしれない。テン泊は九ノ沢(若しくは八ノ沢出合い)、1917m 峰頂上、あとは上記縦走路往復プランと同じだ。これは全体として効率的な山行になる。

問題なのは九ノ沢の標高 940m 付近の滝が連続するゴルジュで、ここを直登するのは私の技術では無理で、高巻きするしかないのだが、これが不確実な要素が多い。左岸を高巻くことが多いようだが、色々と情報を集めてみると上流側に降りる地点の見極めが難しそうだ。高巻きには下降時のリスクが付きまとう。小さめに巻き始めて、状況次第で上へ上へと行くしかないのだろうが、上に行けば行くほど下降がつらくなる。自分の年齢・体力とスキルを総合的に判断しなければならないポイントで、判断が難しい。

このゴルジュを通過してしまえば、総じて難易度が高くない沢でハイマツ漕ぎなしで稜線に出られるようだ。Google Earth で確認してみても 1732 コル付近はハイマツが途切れており、ロックガーデンから北側に回り込むようにして 1732 コルに直接出られるようだ。

☆十の沢から稜線に出て春別岳経由で稜線を南下する

十ノ沢は、報告によると九ノ沢より難易度は低いようで、十.五ノ沢はさらに容易なようだ。しかし、十ノ沢を使った場合、稜線に出る位置は春別岳の北側、十.五ノ沢はさらにナメワッカ分岐の北と、いずれも縦走路のかなり北側になってしまう。ここから南下する稜線のルートはハイマツ漕ぎなどの負担の大きい部分もあり、1917m 峰が目標という場合には総じて効率的なルートとは言えないように思う。全体として遠回りなコースになる。

☆エサオマントッタベツ川から札内JP経由の縦走コースで南下する

日高では人気の縦走コースであるが、2016 年の連続台風で被害を受けた林道が回復しておらず、登山口まで長距離の林道歩きが必要になっている。縦走そのものが目的ではなくて 1917m 峰での撮影が主目的である以上、このルートは選択肢から外すことになる。

結局、カムエクから往復するか、九ノ沢から登るかの二択になるのだが、カムエクからの往復方式で装備表を作ってみたところ、最大で約 20kg になった。最大という意味は途中で水や靴をデポするからで、背中が最も軽い場所でも約 18kg、あと 1~2kg 減らさないと無理だと思う。装備の重量や沢靴と登山靴の使い分け、荷物のデポ、水の確保、雪渓の有無、そして何よりも重要な撮影時間の確保など総合的な見地から検討する必要がある。

カムエク頂上からの往復と九ノ沢経由を比較した場合、ゴルジュの高巻きという1点で、前者が優るという判断になる。なにしろ昨年の7月旅先で「一過性全健忘」になり、直近の記憶が消えてしまい周囲の人たちに迷惑をかけてしまったという前歴がある。回復するまでの数時間の記憶が今も消えたままだ。そのことを持ち出されると、そもそも山に向かうこと自体が危い状況にある。

脳外科の医師の「ふつうは一生に一度」という言葉に一瞬安堵したものの、続けて「またかかったら来てください」という言葉に奈落の底に突き落された気がした。しかし、最近読んだ養老孟司氏の「遺言。」で氏は過去に一過性全健忘に6回かかった(8章)とのことで、少し自信を取り戻しつつある。

カムエク北面を撮りたいとの想いはもはや届かぬ夢なのだろうか...とりあえず体力を落とさぬようにスノーシューで森林公園内を歩き回っている。(2019.1.5)

■■■ 2021.1.15 追記 ■■■

この記事は2年前に書いたものだが、内容が具体的な記述が多すぎるため、実際に登って検証してから記事にした方が良いと判断してお蔵入りにしてきた。しかし、2年経った今も 1917m 峰には登れていない。そして 72 歳になった今、1917m 峰は私にとって遠い存在になってしまった。こうなってしまった原因には、カムエクで連続したヒグマの事故など色々とあるが、最大の理由は自分の体力が届かなかったことだ。

上に長々と書いたことをもっと若いうちに意識していれば、そして日高の山に関心を持っていれば、おそらくは撮れたに違いない。そのときはカメラはブローニーサイズだったろう。

このままボツにしてしまうのももったいないと思い、自分の"山への想い"の記憶として掲載することにした。

ちなみに 1917m 峰からカムエク頂上に日が出るところを撮ることはできない。1917m 峰からカムエク頂上の方角は 156.6°となり、冬至の 12 月 22 日(2021年)でも日の出の位置は 120.17°となる。どうしても撮りたければ 1917m 峰の西尾根の P1380 がちょうど一致する。この時期にそこまで行けるとは思えないが。

P1830の位置

また、5月の残雪期であればさらに南に下がったシュンベツ川とナメワッカ沢の分岐のあたりの尾根からカムエク頂上の日の出が撮れる可能性がある。ただし、カムエク北面は実際は北西向きの壁になっているため、南下すればするほど壁は撮れなくなる。やはり冬至の時期の 1917m 峰西尾根 P1380 がベストということになる。