(続)雲台さがし

(続)雲台さがし

前回は自分が求める雲台はビデオ撮影にも対応できる3ウェイ雲台であろうというところまでたどり着いた。そして具体的な製品として GITZO の G2270M に着目するに至った。メーカーのWebサイトによると「フルードカートリッジにより、パン・ティルト・サイドティルトを精密に制御」と記載されているが、フルードカートリッジについての具体的な説明はなく、どのような技術なのかはわからない。ネットで検索してみてもこの製品に関する情報が少なく、オイルフルードの理解に役立ちそうな情報は見つからない。

カートリッジを使うということは、単に軸受けにグリースを入れるだけではなくてオイルの特性をもっと積極的に使う技術が採用されている可能性が高いと思う。店舗で展示品を操作してみて滑らかな動きは確認できたが、長く使うためには経年変化や耐久性、そしてカートリッジというからにはメンテナンスの問題も発生するわけで、いずれにしても製品の構造について一定の理解をしておく必要があると思う。

そこで、オイルフルードについて自分なりに考えてみることとした。勝手に想定する範囲であってもそこに納得できる要素があれば実機を購入して検証してみる価値もあるだろうという考えだ。ちなみにサイドティルトとはスイングのことであり、スイングは大型カメラから発生した用語のために使い分けているようだ。大型カメラのスイングはカメラ自体を傾けるのではなくてレンズもしくはフィルムカートリッジ、あるいはその両方を傾けることを意味する。

ここであらためて「滑らか」とはどういうことなのか考えてみる。軸受の加工精度の問題なのか、オイルによる潤滑の問題なのか...どうもそんな単純なことではないように思う。もちろんそれらの機械的な要素がベースになるとは思うが、それだけではなくて、その上に「感触」に係る要素があるのではないだろうか。

例えば、軸を回転させようと力を加えたときに、それに反発する力があって、その反発力は一定ではなくて加えた力とのある関係において「感触」という要素が出現するのではないだろうか。

パン操作をするためにパン棒を左にねじってロックを解除し、指先でパン棒を軽く押して雲台を回転させたらどうなるだろうか。そのまま一回転したとしたら「軽い」と言えるだろうが、「滑らか」とまで言えるだろうか。

少し細かく考えるために、上記のパン棒を押す動作を次の3つの段階に分けて考えてみる。

第一段階:パン棒に力を加えてパン棒が動き出すまで

第二段階:そのままパン棒を押して軸が回転している間

第三段階:パン棒を離した後、軸の回転が止まるまでの間

第一段階

パン棒にさわっただけで動き出せば"軽い"と思うか、"軽すぎる"と思うか意見は分かれるだろうが、少し力を入れなければ動かないとしたらそれは"ぎこちない"ということになるだろう。"軽すぎる"はおそらく第二段階との関係において感ずる感触なんだろうと思う。

この第一段階は軸受けの摩擦に関する部分でフリクションとも表現される。コマ締め方式においてロック解除後も残る違和感はこの部分によるものと思う。従って、この第一段階の摩擦力はゼロが理想的なのであろう。

回転軸に一定の摩擦をかければ、軸にある決められた値以上の回転トルクがかからなければ軸は回転しない。軸にかかる回転トルクを横軸にとり、軸の回転角速度を縦軸にとったとき、回転角速度のグラフは最初はゼロの状態を維持し、回転トルクが一定の値に達した時点から右上がりになる(図1)。右肩上がりの角度は摩擦力と相関にあり、摩擦が少なければ急角度になる。

図1 回転軸に摩擦力がかかった状態

この図ではブレークポイントの後はとりあえず直線で上昇させているが、その部分は第二段階のテーマとなる。

第二段階

指でパン棒を押している間、パン棒にかかる指からの圧力は一定とは限らない。軸受けの回転と指の動きの相互関係によるもので、この不安定な関係の中で感触が生まれる。おそらくは軸受けの挙動に含まれる加速度の要素が強く関係しているものと思われる。もう少し具体的なイメージでいうとオイルの粘性が良い感触に近いと思う。このあたりを定量的に理解するためには「粘性」について勉強しなければ先に進めない。

図2 回転軸にかかる摩擦力のイメージ

第三段階

指から離れた後は感触とは別のものになるのだが、直ちに停止することが望ましい。そのためにはある種のブレーキがかかる必要があり、このブレーキは指から離れた瞬間からかかるのではなくて、その前から働いている。つまり第一段階とは矛盾することが求められる。その矛盾を解消するのがオイルの粘性なのではないだろうか。

つまり加速度の小さな微動範囲ではオイルの抵抗がほとんどなく、速度や加速度が大きくなると抵抗が大きくなるということだ。先細りの流路に流体を押し込むと最初のうちは抵抗が少ないもののやがて流路の圧力が上がり流れそのものに抵抗がかかるようになる。その変化の過程が直線的な特性ではなくて滑らかな動きにつながるようなカーブなのだと思う。

ここまで考えて、流体の特性を活かすことが"滑らかな動き"に近づく一つの方法であろうと思うに至った。現実的にはオイルということになるのだが、単なる潤滑油の範囲を超えてオイルの特性を活かすこと、それが「オイルフルード」なのだと思う、ちなみにフルードとは流れることを意味する。

第一段階の摩擦力をゼロにすることは不可能だが、これをできるだけ少なくすることは可能だと思う。ただ、「お辞儀」してレンズを痛めるリスクを考えて一定の摩擦力を残すのが現在の雲台の設計の考え方だと思う。そこがコマ締め方式の限界なのだろう。

初期段階での摩擦力を極力減らしつつ軸の回転角速度に連動して摩擦力が立ち上がるような特性は実現できないだろうか。例えば下図のような特性だ。

図3 軸が動く前と動き出してからの摩擦力変化のイメージ

このような特性が実現できたとしても、「お辞儀」防止に必要な特性と、私がこだわる動き出しの摩擦ゼロの特性の双方に効果があるか否かはわからない。はっきり言えることはそれらは別々の要求であって、それぞれ個別に対応する必要があるという事だ。

このアプローチ、間違っているかもしれないが、しかし、それを検証するために今さら流体力学に取り組む気力が湧いてこない。そこまで事前に検証する前にさっさと実機で確認したくなった。少なくともそこまでのリスクを受容する価値が見えてきた。