レイリー散乱について

空が青く見える理由について、ネットなどで調べた結果「レイリー散乱」に行きつきました。さらに専門書などで詳しく確認し、大気分子によるレイリー散乱の結果ということで一旦は納得はしたものの、よく考えてみると、どうもしっくりとこない部分があります。遠くの山の青い色の濃さはその日によって異なり、短時間のうちに変動するからです。
そして、同じレイリー散乱でも大気分子以外の別の微小な粒子によるものではないのかという疑問を持ちはじめました。この疑問を解決するためには、まずレイリー散乱の性質を少し細かく整理しておかなければなりません。大気分子とそれ以外の微小な粒子との比較に必要になるためです。
ちなみに大気中の光の散乱を考えるときは、霧や雲などのより大きなサイズの粒子による「ミー散乱」の影響が大きく、これを排除しながら考える必要があります。

(1) 光は電磁波

光は電磁波であり、振動する電場と磁場がそれぞれ光の進行方向に対して直角になっている横波です。光の進行方向を z 軸とすると x 軸が電場の振動方向、 y 軸が磁場の振動方向になります。また、電場が負の向きになっているときは磁場が正の向きになっています。これらは Maxwell の方程式によって明らかにされています。
光が大気中の荷電粒子にあたると光と粒子間に相互作用(ローレンツ力)が発生します。電場と磁場でそれぞれ別個に相互作用が発生しますが、磁場による作用は電場による作用の 1/c になる(cは光速)ことが Maxwell の式から説明されています。そのため、電場による力のみを考えることとします。

(2) 単一の双極子による光の散乱

大気中の超微小粒子による光の散乱を考えるとき最も単純化したモデルとして1つの双極子による光の散乱を考えてみます。
原子の中にあって外側の電子が光の電場に反応し、光の周波数に同期して振動しますが、原子核との相互力に束縛されて、ある範囲でしか動くことができません。この振動の形態は量子力学でいうと段階的な動きになりますが、ここでは単純に振動ととらえればよいと思います。
光は横波であるため、電子は入射光とは直角方向に振動し、結果、双極子モーメントが現れます。双極子モーメントの大きさは振動によるずれの大きさと電荷の値を掛けたものになります。
振動する双極子モーメントからは電磁波(双極子放射)が発生します。入射光の周波数に同期しているため、この双極子放射は2次光といいます。
仮に光の入射方向と電場、磁場の方向を次の座標のように表すとします。このように単純な方向性で表現できる光は直線偏光の光なのですが、実際の自然光はちょうどz軸を中心に回転するようにいろいろな角度の光が混ざっています。

図-1 入射角と磁場、電場の関係

電場の方向に発生する双極子モーメントから放射される二次光は、x軸の方向(横方向)から見ると360度等方的になります。

図-2 X軸からの視界

また、y軸方向(上方向)からみると、次のようにドーナツの断面のような形になります。x軸方向には二次光がありません。

図-3 Y軸からの視界

さて、実際の自然光は直線偏光ではなく、いろいろな回転角の光が混在していますから、上の2つのパターンが重なり合った形になります。下の図は光の方向に直角なすべての方向から見た場合の二次光の強度分布を示しています。

図-4 光の方向に直角な全方向からの視界

この図からわかることは、入射光線に対して 0°と 180° の方向で散乱光が最も強くなり、入射光線に対して 90° の方向が最も散乱光が弱くなるということです。
散乱光の強さは入射光の強さや粒子の屈折率、導電率などから計算することができ、入射光の波長の4乗に反比例することが明らかになっています。可視光線の波長は青 ( 400nm ) ~ 赤 ( 700nm ) なので、波長の短い青は波長の長い赤に対して約9.4倍散乱しやすいことになります。

(3) 多数の原子が格子状に規則的に配置されている場合の散乱光

二次光の発生原理を単純化するために単一原子における散乱の形を考えてきましたが、ここでは超微小粒子が大気の分子と考え、低空における分子が密に存在する場合を考えます。
原子が規則的に配置されており、その間隔が光の波長に対して十分に小さい場合は、回析格子に光が入射したものとして捉えることができます。
回析格子の理論の説明は省略しますが、隣の原子からの二次光との間隔が波長の整数倍になった場合に強め合うことになります。結果、入射光が原子にあたった場合の透過光と反射光のみが残ることになります。つまり散乱光はなくなります。

図-5 格子状に存在する分子からの散乱光

(4) 多数の原子がランダムに密に存在する場合の散乱光

原子の配置がランダムであれば二次光も色々な位相を持ったものとなり、多数の二次光の重ね合わせによって消し合う方向の干渉を起こします。しかし、入射光方向の二次光だけは原子に当たることによる位相のずれはそれぞれについて同じなので、位相のずれはキャンセルされて強め合うことになります。結局、原子が規則的に配置されているか否かにかかわらず、原子間隔が波長より十分に小さい限り、二次光は入射角と同一方向か反射方向かの2方向のみとなります。
低空の大気の分子間隔は数ナノメートルです。光の波長よりは十分に小さな値であり、上記多数の原子による場合と同様に捉えることができます。したがって、低空においてはレイリー散乱は起こらない(見えない)ということになります。これが遠くの山が青く見える理由としてレイリー散乱で説明できないことの理由です。一方、上空になると大気は希薄になり、分子間隔が大きくなると二次光同士が打ち消しあう効果が弱くなり、残った二次光によって空が青く見えることとなります。
日の出の約30分前、晴天であれば空は美しいブルーに染まります。その中を人工衛星が輝きながら通過して行くという光景を見たことがある方もいるかもしれません。そして、日の出が近づくと低空の水蒸気がミー散乱を起こして、空の色は徐々に白っぽくなっていきます。この一連の変化は大気分子のレイリー散乱の様子を物語っています。

(5) 遠くの山が青く見える理由

遠くの山が青く見えるのはレイリー散乱によるものであるが、その散乱の原因となる粒子は大気分子ではないようです。では何が原因なのか。ここまでの考察の結果を整理すると次のようになります。
・青色という点からしてやはりレイリー散乱が原因である
・散乱の原因粒子が大気の分子でなければ、それに代わるもので、希薄に、密度の揺らぎをもって存在する別の超微粒子が関与している
この条件に該当するものとしてエアロゾルを想定しました。大気中に浮遊する微粒子です。
エアロゾルを散乱の原因とすることについては、分子が密に存在する低空の大気の中に稀薄なエアロゾルが混在したところで、全体としての密度に与える影響は微々たるものではないか、従って、散乱光は打ち消される状況に変化はないのではないかという疑問が出てきます。しかし、大気の分子とエアロゾルでは屈折率と散乱係数が異なる結果、散乱光の強度が異なります。結果、エアロゾルによる散乱光が残るものと考えることができます。
ここから先はエアロゾルについて考えていこうと思います。しかしそれでもなお散乱光の原因をエアロゾルに求めることには戸惑いがあります。ネットや書籍などいろいろ探しても確信が得られないからで、間違ったアプローチになるかもしれません。
参考図書:「光物理学の基礎」(江馬一弘著、朝倉書店)、「大気と微小粒子の話」(笠原三紀夫著、京都大学学術出版会)、「エアロゾルの科学」(S.K.フリードランダー、早川一也・芳佳邦雄訳、産業図書)
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