エアロゾルの概要

遠くの山が青く見えるのは光のレイリー散乱が原因になっているものの、その散乱を起こす微粒子は大気の分子ではなく、粒径40ナノメートル以下のエアロゾルではないかと考えるに至りました。

ここからは光のレイリー散乱の原因粒子としてのエアロゾルについて、その概要を整理していきます。

(1) エアロゾルとは

「エアロゾル用語集」によると、エアロゾル(aerosol)とは「空気中に微小な液体粒子や個体粒子が浮遊している分散系、あるいはこれらの微小な粒子そのもの」と説明されています。そしてその生成過程の違いから、粉じん(dust)、フェーム(fume)、ミスト(mist)、ばいじん(smoke dust)に分類されています。また、気象学的には、色や視程の違いなどから、霧(fog)、もや(mist)、煙霧(haze)、スモッグ(smog)などと言われています。

(2) エアロゾルの粒径による分類

光の散乱を考えるときはエアロゾルの粒子のサイズ(粒径)が重要な要素になります。形が定まらないものを等価的に粒子径として評価するために幾何相当径や物理相当径などの考え方があります。このテーマは光の散乱に関するものですから、物理相当径の中の光散乱径で捉えることになるのだと思います。粒径に着目してエアロゾルを分類すると次のようになります。

表-1 粒径によるエアロゾルの分類

分類
粒径
主な発生源と物理的状態
微小粒子
小粒子群
(超微小粒子)
<粒径>
50nm以下
50nm以下
・高温の燃焼ガスが冷却されて凝縮して個体・液体粒子になる。(炭素粒子)
・二酸化硫黄などのガス状物質がガス相反応によって揮発しにくい物質になって凝縮してできる。(硫酸粒子)
※ガス相反応とは、ガス状物質が光や宇宙線によって化学反応を起こし姿を変えること
中間粒子群
<粒径>
50~2,000nm
50~2,000nm
・小粒子群が他のガス分子を吸収・吸着したり、小粒子群自体が凝集したりして成長してできる。
・元素状炭素、有機炭素、二次粒子の硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、微量金属化合物。
粗大粒子
大粒子群
<粒径>
2,000nm以上
2,000nm以上
・黄砂のような土壌物質、海塩粒子などの自然起源の粒子。
・Na、Cl、Al、Si、Ca、Ti、Feなどが主成分。

身近な例としてオフィス内の空気環境を管理する分野では空気中の微粒子を重量濃度分布で表現します。この場合、微小粒子と粗大粒子のそれぞれにピークを持つ2山分布になります。しかし、光の散乱に関係するのは粒径であることから、ここでは粒径による分布が重要になります。

粒径によってエアロゾルを分類すると、下の図のように①、②、③の3つの山に分かれた分布を示します。

図-1 エアロゾルの粒径分布

上の図で①は小粒子群(超微粒子)、②は中間粒子群(微小粒子)、③は大粒子群(粗大粒子)が該当しますが、それぞれの領域の微粒子の生成過程や変異の過程を動的に表現した名称として次のように分類されているようです。

① 核形成モード
(粒径 15~40nm にピークを持つ)
② 蓄積モード
(粒径 0.15~0.5μm にピークを持つ)
③ 粗大粒子モード
(粒径 5~30μm にピークを持つ)
レイリー散乱との関連においてエアロゾルをみるときは小粒子群(超微小粒子)のみ、つまり核形成モードのみが対象となります。なお、超微小粒子については、研究分野によってはナノ粒子、エイトケン粒子と呼ばれているようです。
ここで、今後の議論に必要な各種の粒子サイズを整理しておくこととします。粒子によって一般的に使用する単位が異なっているため、比較を容易にするため、SI単位系の m (メートル)と、通常使用している μm(マイクロメートル)、および nm(ナノメートル)で表現しています。
青色光の波長の 1/10 以下の径を持つ空気以外の粒子が今後の主な検討対象になります。

表-2 粒径と波長の比較

粒子と光
粒子の径
光の波長
粒子の径・光の波長
m:メートル
μm:マイクロメートル
nm:ナノメートル
可視光の波長
0.4~0.7×10-6
0.4~0.7μm
400~700nm
青色光の波長
0.43~0.49μm
430~490nm
原子
1×10-10m
1×10-10μm
0.1nm
水・空気の分子
0.2~3×10-9m
0.2~3×10-3μm
0.2~3nm
霧の粒子
3~10×10-6m
3~10μm
3,000~10,000nm
海塩粒子
60×10-6m
60μm
60,000nm
排ガス粒子
0.5~1×10-6m
0.5~1μm
500~1,000nm
飛散土壌
4~5×10-6m
4~5μm
4,000~5,000nm
煙 霧
1~100×10-4m
100~10,000μm
1~100×105nm
PM2.5
2.5×10-6m以下
2.5μm以下
2,500nm以下

(3) 各モードの特徴と相互関係

小粒子群は高温の燃焼ガスが冷却されて凝縮して個体・液体粒子になる場合と、二酸化硫黄や二酸化窒素などのガス状物質がガス相反応によって揮発しにくい物質になって凝縮してできる場合とがあります(核形成モード)。また、中間粒子群は核形成モードによって生成された小粒子群がさらに他のガス分子を吸収・吸着(凝縮)したり、小粒子群どうしが合体(凝集)して成長したものです。(蓄積モード)
大粒子群は小粒子群・中間粒子群と異なり、土壌粒子や海塩粒子のように主として物理的な力によった細分化され分散して発生した粒子で、微小粒子とは関連性を持ちません。
レイリー散乱をテーマにしている以上、核形成モードが主たる検討の対象となりますが、核形成モードは蓄積モードと密接な関係を持っており、相互間の移行もあることから、蓄積モードについても意識する必要があります。

(4) 微小粒子の化学成分

①無機成分

・硫酸塩は硫酸イオン( SO42- )を陰イオンに持ったエアロゾル粒子の総称。硫酸イオンは光化学反応の活発な夏季に増加する。
・硫酸は大気中ではガスではなくエアロゾルとして存在する。ミストとして浮かんでいるよりは硫酸上に水蒸気を凝縮させてできた水溶液の中で水素イオンと硫酸イオンに解離する。その方がエネルギー的に有利である。
・二酸化硫黄(SO2 )は工場、火力発電所、火山、自動車排気ガスなどからガス(気相)として排出される。雲などの水に溶けている(液相)場合もあれば既存のエアロゾルの表面に吸着している場合(不均一表面の反応)もある。二酸化硫黄が水と反応して酸化されて硫酸ミストになる。
・硫酸( H2SO4 )の多くは、アンモニアと結合し、硫酸アンモニウム(( NH42SO4 )として大気中に存在する。

②炭素成分・有機成分

・生物起源や人為起源の高分子の炭化水素が大気中で酸化することにより生成する。
・炭素成分は、有機炭素 (Organic Carbon : OC) 、元素状炭素 (Elemental Carbon : EC) 、及び炭酸塩炭素 (Carbonate Carbon : CC) の3種類に区別される。
・OC(有機炭素)は炭素成分に有機粒子が付着したもの。揮発性あるいは非吸光性炭素と呼ばれることがある。
・EC(元素状炭素)は不完全燃焼過程で発生する炭素が主成分。吸光性炭素と呼ばれることもある。
・CC(炭酸塩炭素)は主にCaCO3として土壌由来の成分として粗大粒子中に存在する。
・燃焼時に気体の凝結で「すす」が生成される。「すす」には元素状炭素、黒色有機凝集粒子がある。
・DEP(ディーゼル排気微粒子)は多くのススなどの炭素成分、有機成分を含んでいる。超微小粒子の領域ではエンジンオイルの成分が関与している。

③金属・土壌成分

・土壌粒子、海塩粒子、鉄鋼工場、廃棄物焼却、植物燃焼、石油燃焼、潤滑油の添加物などから発生する。
・粗大粒子が該当する。
エアロゾルの静的な特徴について整理してきました。ここから先は核形成モードにおける小粒子群(超微粒子)の生成過程や蓄積モードとの相互移行関係などについて調べていきます。
※出展:「エアロゾル用語集」(京都大学学術出版会)、「光物理学の基礎」(江馬一弘著、朝倉書店)、「大気と微小粒子の話」(笠原三紀夫著、京都大学学術出版会)、「エアロゾルの科学」(S.K.フリードランダー、早川一也・芳佳邦雄訳、産業図書)、「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書」(環境省)