微小粒子の形成と蓄積

核形成モードと蓄積モードに着目して粒子の発生過程を図にまとめると下の図ようになります。

図-1 核形成モードと蓄積モードの粒子発生過程

(1) 微小粒子の生成(核形成モード)

微小粒子の生成に関するいくつかの項目。

①核の生成

表-1 核の生成

均一相核生成
単一の蒸気分子の集合によって核が生成される過程をいう。
不均一相核生成
あらかじめ核による粒子が存在し、その上に蒸気が凝縮し成長していく過程で、均一相核生成よりも速い。大気中のエアロゾル粒子の生成に大きく寄与している。
多成分均一相核生成
2成分以上の蒸気成分が存在し、例えば水分子とその他の成分の水和反応などによって相互作用する場合。

②クラスター

・発生したガス状の分子は蒸気中において熱運動による衝突付着により、数個の分子の合体した集合体をつくる。

・この集合体はクラスターと呼ばれ、通常はいったん生成されてもすぐに元の単分子に戻るが、分子の衝突頻度が高い場合は、クラスターの一部がさらに他の分子やクラスターと衝突を繰り返して次第にその大きさを増して微小粒子になるものが現れる。

③凝縮

・凝縮とは蒸気の温度を露点以下に下げた場合に液化する現象をいう。

・新しい核の生成が減少し、既に生成された核がさらに分子を取り込んで微小粒子へと成長する過程で凝縮が行われる。

・凝縮は核生成モードおよび蓄積モードにおいて観測される。

④凝集

・凝縮が核どうしあるいは核と分子間の現象であるのに対して、粒子どうしの相互作用によって衝突・合体して成長する過程を凝集という。

・粒子どうしの相互作用としては、ブラウン運動が代表的で、他に流体の速度差による凝集、乱流による凝集、静電気による凝集などがある。

・気相中では非常に速く凝集が進行する。

⑤一次粒子生成と二次粒子生成

・粒子の発生源から直接排出される粒子を「一次粒子生成」という。また、大気中で生成される粒子を「二次粒子生成」という。

表-2 一次粒子生成と二次粒子生成

一次粒子生成

・一次粒子生成の代表例は不完全燃焼によって発生するスス。

・煙道内ではガス状であったものが外に出たとたんに大気との混合、冷却によって凝縮し粒子化する粒子を凝縮性ダストといい一次粒子生成に含めている。

・凝縮性ダストの主成分を次に示す。

-ガス状物質 「H2SO4ミスト」、「SO2」、炭化水素、HCL

-低沸点金属 Zn、Pb

・自動車の排気ガスからは、スス、硫酸塩、未燃燃料、潤滑油のオイルや添加物などが発生する。

二次粒子生成

・大気中のガスや粒子が紫外線のエネルギーを受けて光化学反応を起こすことによって、次のように二次粒子が生成される。これはほとんどが微小粒子となる。

-NOx と炭化水素成分から生成する粒子

-ガス状 SO2 からの硫酸塩粒子

-NOx からの硝化物粒子

-HCl からの塩化物粒子

-NH3 からのアンモニウム塩粒子

-炭化水素ガスからの有機粒子生成

・一次粒子の発生源

表-3 一次粒子の発生源

人為起源
固定発生源
ボイラー、焼却炉等
移動発生源
自動車、船舶、航空機等
自然起源
土壌粒子
海塩粒子
火山噴気
越境移流
黄砂、大気汚染物質
・上記発生源の中で、小粒子群(超微小粒子)に関係するものとしては人為起源のものと火山噴気が該当する。
・越境移流の大気汚染物質については PM2.5 が主流で、ナノ領域については長距離移動の間に消滅するものと考えられる。

(2) 微小粒子の挙動に影響する気象条件

風速と大気安定度が大気粒子の立体分布に最も大きな影響を及ぼす。

①地表面からの影響の有無による分類

・大気境界層 : 地表面からの影響を受ける層で、数 100m ~ 1,000m 以上の範囲。
・自由大気 : 地表面からの影響を受けない層で、1Km を下限とする。

②大気の混合の有無による分類

・混合層 : 地表面の過熱・冷却の影響の及ぶ範囲、混合層の高さが大気境界層の高さに達することが多い。
・混合層高度 : 地表面の空気の塊が断熱的に上昇する上限の高さ、混合層高度は大気汚染濃度に影響する。

③大気安定度

・気温減率(乾燥断熱減率) : 空気隗が相対湿度100%未満を維持したまま断熱的に上昇するときは100m あたり 0.98℃気温が低下する。
・中立 : 気温減率が 0.98 の場合。
・不安定 : 気温減率 > 0.98 の場合、空気の混合が起こりやすくなる。
・安定 : 気温減率 < 0.98 の場合、空気の混合が抑制される。
・フュミゲーション(燻し現象) : 上層が安定で仮想が不安定の場合。

④気温逆転

・地上付近よりも上層の方が気温が高くなる現象。
・逆転層 : 気温の逆転が起きている層、大気汚染物質の拡散が抑制される。
・沈降性逆転 : 高気圧の中で乾燥空気が断熱的に下降して昇温することにより逆転層を発生させる。下降した乾燥空気は地上の空気の対流・乱流に阻止されてせいぜい地上から数百メートルまでにとどまる結果、安定した逆転層を形成し上層・下層間の空気の交換は抑制される。
・放射性逆転(接地逆転) : 晴天で風が弱い夜間に地表面の放射冷却により発生する。地上からの高さ 300m 程度までの場合が多い。日の出とともに逆転は解消する。

⑤風

・局地風 : 海陸風が典型例で夜間と昼間で風向きが変わる。
・海陸風 : 夜間と昼間で風向きが変わる。
・夜間の海風によって海岸域の汚染物質が内陸まで運ばれ、内陸の大気汚染物質の濃度が高まる。そして日の出とともに陸風によって汚染物質が再び海側に流れる結果、陸側の大気汚染物質濃度が低下する。
・内陸側に発生した熱的な低気圧と連動すると海風の規模も大きくなり、通常スケールの 20Km 程度を超えて 200Km に及ぶこともある。また、その逆に、火山の噴気等によって内陸側に蓄積した大気汚染物質が日の出とともに陸風によって海側に流れ出る結果、内陸の大気汚染物質の濃度が低下することが考えられる。

⑥沈着

・大気中の粒子は沈着によって消滅する。沈着は次のように分類される。
・湿性沈着 : 降雨・降雪による除去。
・乾性沈着 : 拡散・泳動・完成衝突による除去(地表の物体ととの衝突)、重力沈降による除去、風や大気の乱れの影響が大きい。
・一次粒子の発生源から遠ざかるに従って湿性沈着の比率が高まる。

⑦滞留

・対流圏での大気粒子の寿命は4~5日程度、成層圏では1週間以上になる場合があるといわれている。
・核形成モードにおける超微小粒子および粗大粒子モードの粒子の寿命は半減期が数分から数時間。
・蓄積モードの粒子は数日が数週間になる。

⑧時系列変化

・日内変化、週内変化、季間変化がある。
・日中は混合層が発達し、日射量も増えて、気温も上昇するので二次生成微小粒子が増加する。
・粒子状物質は単独の化学物質ではなく混合物のため、朝夕と日中ではその組成が異なる。
※出展:「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書」(環境省)、「光物理学の基礎」(江馬一弘著、朝倉書店)、「大気と微小粒子の話」(笠原三紀夫著、京都大学学術出版会)、「エアロゾルの科学」(S.K.フリードランダー、早川一也・芳佳邦雄訳、産業図書)