大気電気学の観点から

(1) 大気電気学の視点から

大気電気学という分野があり、エアロゾルを帯電したイオンとして捉えると、電離層と地表という電極間に挟まれたエアロゾルの動きは電離層の動向に影響を受けることになる。
イオンは半径によって次のように分類される。(電気の分野では粒子の径は半径で表現する。)

表-1 半径によるイオンの分類

小イオン
半径 6×10-4 マイクロメートル未満
中イオン
半径 1×10-3 ~ 2.5×10-2マイクロメートル
大イオン
半径 2.5×10-2 マイクロメートル以上
ランジュバンイオン
半径 2.5×10-2 ~ 5.5×10-2マイクロメートル
小イオンは放射線による大気の電離により生成され、10~30個の分子がクーロン力で結びついてクラスターを作っている。回りにエアロゾルがあるとそれに付着し大イオンとなる。対流圏の大気の電離作用は主として宇宙線と他の放射性物質による。
土壌中の放射性物質による電離作用は地表面近くに限られ、ラドンとその娘核種による電離作用は高度600~700m程度までは重要な位置を占めるがそこから上空になると宇宙線の影響が支配的となる。

(2) 宇宙線

宇宙線は太陽活動の影響が大きい。電離層の中でも高度100~120Km程度の地表に近い層の変化がエアロゾルの動向に影響を与えているかもしれない。
独立行政法人情報通信研究機構電磁波計測研究所宇宙環境インフォマティクス研究室がホームページに公開している電離層の可視化データによると2002年7月26日午前7時前後のE層には比較的大きな乱れが発生していたことがわかる。
同研究室が公開している国内定常電離圏観測データのイオノグラム表示を以下に示す。

独立行政法人情報通信研究機構電磁波計測研究所宇宙環境インフォマティクス研究室のデータから引用
データ提供「WDC for Ionosphere, Tokyo, National Institute of Information and Communications Technology」

図-1 夜の化学反応

また、同研究室の太陽・地球環境情報チャートによると2002年7月後半は太陽活動が活発であったことがわかる。

独立行政法人情報通信研究機構電磁波計測研究所宇宙環境インフォマティクス研究室のホームページから引用

図-2 太陽地球環境情報チャート

太陽風の影響が対流圏の大気中のイオンにどのように及ぶのかについてはわからない。
太陽風のバーストによって電離層の帯電粒子が増加し、地表面との間に存在するエアロゾル粒子の動向に影響を与えるとまで言えなければ、この話はなしということになる。

(3) 放射性物質

大気中に存在する放射性物質は約44億6800万年の長い半減期を持った放射性物質(ウラン238)を祖先とし、崩壊の途中にラドンRn(気体)があり、崩壊の終局は鉛(Pb)の安定同位体に至る。地表面付近のラドン(気体)の濃度は大気の乱流拡散に大きく影響される。一般的には早朝に最大で、午後に最小になると言われている。
遠くの山が早朝に青く見えるという現象を大気中のラドンに結び付けて考えたとき、早朝に濃く、日の出の数時間後には薄くなるという変化をどのように説明するか。日射による気温の上昇とともに乱流によって拡散するとくらいしか説明できないような気がする。
出展:「エアロゾル用語集」(京都大学学術出版会)、「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書」(環境省)、「光物理学の基礎」(江馬一弘著、朝倉書店)、「大気と微小粒子の話」(笠原三紀夫著、京都大学学術出版会)、「エアロゾルの科学」(S.K.フリードランダー、早川一也・芳佳邦雄訳、産業図書)、独立行政法人情報通信研究機構電磁波計測研究所宇宙環境インフォマティクス研究室のホームページ、「大気電気学」(北川信一郎著、東海大学出版会)