写真の露出:露出の基礎

"とにかく撮る"というところから一歩踏み込んで,"なぜ","どうして"という疑問を持って露出の仕組みをもう少し順序立てて整理してみます。

■「露出値」と「露光量」

・私たちは,カメラの「絞り」とか「シャッター速度」という形で「露出」という表現を使いますが,それらの表現には結構,あいまいな部分があります。少し込み入った話になりますが,この際,露出の意味を整理しておきたいと思います。
「露出値」とは,被写体から発せられる光が,感光体(フィルムまたはイメージセンサ)に適切な露光量となるように,調節するための「絞り」と「シャッター速度」の組み合わせを定量的に表現したものをいいます。例えば,「絞り 5.6 でシャッター速度 1/125」というような組み合わせを露出値といいます
・しかし,この説明だけではまだまだあいまいです。下の図-6 を見てください。

図-6 被写体から感光体までの図

・図-6 は光が感光体にとどくまでの経路と,露出に影響する要素を示しています。
①被写体に当たる光の強さ(太陽光線やストロボ光など)
②被写体の反射率
③被写体からカメラに向かう方向の光の強さ
④カメラの絞り値 (F)
⑤カメラのシャッター速度 (T)
⑥感光体の ISO 感度
・これだけの要素があるときに,最終的に感光体に届く光を「適切な露光量」として調節する必要があり,それが,「露出」のテーマです。
・「露光量」とは,「光の強さ」×「露光時間」をいいます。ある一定の光の強さでも感光体にあたる時間の経過とともにその影響が蓄積される訳です。例えると,ヤカンにお湯を沸かすとき,火の強さと時間という2つの要素でお湯の沸き具合が変わるのと同様のことです。
・レンズを通過して入ってくる光は「強さ」しか持っていませんから,これにシャッターによって「時間」の要素を加えて露光量にしているわけです。
・「絞り」は「F値」ともいいます。通常は,1.0/1.4/2.0/2.8/4/5.6/8/11/16/22/32と段(ステップ)を刻みます。この数値以外の絞り値もありますが,それはあくまでも 1/2 段とか,1/3 段に相当する"中間値"であり,段(ステップ)ではありません。
・「シャッター速度」は「T(秒)」で表現し,通常は,16 秒/8 秒/4 秒/2 秒/1 秒/2 分の 1 秒/4 分の 1 秒/8 分の 1 秒/15 分の 1 秒/30 分の 1 秒/60 分の 1 秒/125 分の 1 秒/250 分の 1 秒/500 分の 1 秒/1000 分の 1 秒/2000 分の 1 秒/4000 分の 1 秒/8000 分の 1 秒と,段(ステップ)を刻みます。中間のシャッター速度はやはり応用値として捉えなければなりません。
・「適切な」とは,感光体の特性上,記録できる露光量には上限・下限があるため,ファインダー内の風景の明暗差に対して片寄りをできるだけ少なく標準的な範囲を記録できるように調節することをいいます。
・「組み合わせ」の意味は,「絞り値」と「シャッター速度」の組み合わせをいい,次の表の横並び各行の組み合わせはいずれも「露出値」としては同じ値となります。表1の例では,(F=16,T=1/8) と (F=5.6,T=1/60) は同じ露出値となります。

表1 露出値の例

絞り値(F)
シャッター速度(T)
32
2分の1
22
4分の1
16
8分の1
8
30分の1
5.6
60分の1
4
125分の1
2.8
250分の1
2
500分の1
1.4
1,000分の1
1.0
2,000分の1
・つまり,絞りを2段開け (F16→F5.6),シャッター速度を2段早く (1/8→1/60) したら,露出に関しては結果は同じということです。絞り値とシャッター速度の数値をそのまま掛けた数値で判断していないことに注意が必要です。ここでは,「段」と表現しています。
・「絞り」と「シャッター速度」で光の強さと時間を調節し,感光体に適切な露光量となるように調節することはわかりました。 しかし,ここで疑問がわいてきます。"カメラに入ってくる光"つまり,被写体が反射している光といってもカメラ側では光の強さしかわかりません。図6でいう③はわかっても①と②はわからないわけです。特に②については,被写体の色(灰色を含めて)を決める要素ですから,重要です。実際の被写体は雲であったり,うっそうとした森林であったり,夕焼け空であったり,それこそ千差万別なわけで,それを図-6 の③「光の強さ」だけで捉えて,いいのでしょうか。
・その答えとして,カメラが露出値を決めるときは,"被写体は反射率が 18% の均一な色である"とみなすこととしています。この 18% を「標準反射率」といい,具体的にはグレーの色になります。「18% グレー」などともいいます。つまり,カメラの露出計は,「被写体の色は 18% 反射率のグレー」であることを前提として,それが,感光体の感度の中庸なところになるように,露出値を指示するように設定されているわけです。従って,白い雲などの 18% グレーより明るい部分があれば,それは見た目よりも暗く写ってしまいうっそうとした森林の中などの 18% グレーより暗い部分があれば,それは見た目よりも明るく写ってしまうのです。これは,捉えようによってはむちゃくちゃな話ですがカメラには撮影対象が雲なのか森なのかわからないわけで,やむを得ないことなのです。
・ファインダー越しに見える風景のなかには,通常は,多様な明るさや多様な色の部分が含まれているものの,全体の平均としてみれば,反射率 18% に近いものになることから標準反射率が定められており,普通に写真を撮っている限りにおいては問題となることは少ないという考え方によるものです。

■標準反射率を考慮した露出値の決定

・写真-4 をご覧ください。この写真は平均測光の自動露出で撮影したものです。画面の中には,全体として明るい範囲(B)もあれば,全体として暗い範囲(A)もあります。しかし。写真-4 全体を平均すれば,ほぼ 18% の反射率相当の明るさになるはずです。だから,カメラの露出計は,この露出値を指示したわけです。

写真-4 標準露出の写真例

・しかし,同じカメラでレンズを望遠にして(A)の部分のみ撮影したらどうなるでしょうか(写真-5)。また,(B)の部分のみ撮影したらどうなるでしょうか(写真-6)。写真-5 と写真-4,そして,写真-6 と写真-4 を比較してみてください。特に,朝焼けの雲の色の濃さの違いに注目してください。

写真-5 (A) の部分を撮影した場合

写真-6 (B) の部分を撮影した場合

・(A) も (B) も元の写真と較べて明らかに空の明るさが違います。しかし,それぞれの写真は画面全体の明るさの平均値は反射率 18% 相当の明るさになっているはずです。カメラとしては,正しく露出を決めているのです。
・もうお分かりでしょう。カメラはどんな被写体もすべて 18% グレーだと思っているわけです。だから,なんでも灰色(の明るさ)相当に写るように露出を決めるのです。
・実際の被写体が 18% 反射率のグレーだったら全く問題はありませんが,現実の風景では,白い雲を撮ったはずなのに灰色の雲に写ったり,夜景を撮ったときに,眼には暗くて見えなかったはずの前景が写り込んだりするわけです。
・さて,まとめです。カメラのレンズや感光体にはそれぞれ独自の性能がありますが,露出計にもそれ独自の性能限界があります。露出計は被写体の反射率を 18% グレーと決め込んでいます。だから,実際の被写体の色や明るさがそれと大きく異なる場合は,人間による補正が必要になります。そうしなければ,せっかくのレンズや感光体の性能を活かしきれないのです。
・露出補正をする場合,明るい被写体の場合は,プラスの露出補正(絞りを開ける,又はシャッター速度を遅くする。),そして,暗い被写体の場合は,マイナスの露出補正(絞りを閉じる,又はシャッター速度を速くする。)が必要になります。
※一部の高級なカメラは,測光に関する優れた機能を実装しています。ご自分のカメラの測光機能を取扱説明書等で確認されることをお勧めします。
※写真-5 と写真-6 は説明のため,同一の写真をトリミングして画像処理しています。