写真の露出:露出とEV値

単体露出計を使い,そこから得られるEV値によって露出値を決定するために必要な基礎知識について説明します。

■「露出値(EV値)」とは

露出値はEV(Exposure Value)ともいいます。" EV 値とは?"という問いに対しては,とりあえず次の2つの定義が答えになります。
定義1:露出値(EV値)とは感光体(フィルムやデジカメのイメージセンサをいいます。以下同様。)に適切な露光量を与えるために,カメラの感光体に届く光の量を,絞り値(F)とシャッター速度(T)の組み合わせによって制限する場合の絞り値とシャッター速度の組み合わせを定量的に表現した値をいいます。
定義2:感光体の受光感度がISO100であることを前提として,絞り値1,シャッター速度1秒で反射率18%の被写体が適正露出として感光体に記録される光の強さをEV0と定義しています。
しかし,この定義だけでEV値を使いこなすにはまだ不十分で,"EV値の具体的な値がどのような理屈で算出されるのか"を明らかにする必要があります。
露出を効率的に扱う手法として,「Ansel Adamsのゾーンシステム」や「APEXシステム」がありますが,いずれもEV値の考え方をベースに,その使い方を効率的に工夫したものであって,EV値そのものは前提となる原理としているようです。
露出値(EV値)を少し詳しく(正確に)理解するために,数学的な表現によって整理してみようと思います。この節では露出計におけるEV値の扱い方を整理し,次節で数学的なアプローチを試みることとします。

■「露出値(EV値)」の測定

・「露出値(EV値)」はカメラに内蔵された,あるいは単体の露出計で測定します。ただし,通常はカメラに内蔵された露出計からはEV値を直接読みとることはできず,絞り値とシャッター速度の組み合わせとして知ることができます。EV値そのものを知るためには,通常はカメラから独立した単体露出計を使うことになります。2008年5月現在で市販されている単体のスポット露出計の例を写真7でご覧ください。

写真-7 単体露出計の例(Pentax Digital SpotMeter)

・EV値についてできるだけ正確に理解するためには,光の測定についての基本的な事項から整理しなければなりません。 光の強さ(照度)を表現する単位として,一般的にはルクス(lx)が用いられます。参考までに,1ルクス(lx)は,1平方メートルの面が1ルーメンの光束で照らされるときの照度として定義され,1ルーメン(lm)は、全ての方向に対して1カンデラ(cd)の光度を持つ標準の点光源が1ステラジアンの立体角内に放出する光束と定義されています。
・これら,光の強さに関する定義には,時間の概念はなく,数学的には正確な表現ではないかもしれませんが,一次元の数値ということになります。
・一方,カメラの感光体について考えるときは,露光量(光の強さ×露光時間)として捉え,その露光量を制御するために「露出値」を使います。この露光時間も一次元の数値ということになります。
・「光の強さ」も「露光時間」もそれぞれ一次元の数値で変数は1個ですが,両者の積である露光量を関数で表現すると,変数は2つとなり,二次関数となります。
「光の強さ (lx)」:
単位面積あたり照射される光束 (lm) を変数とする一次関数
露光時間 (s)」 :
シャッターが開いている時間 (s) を変数とする一次関数
露光量 (EV)」 =
光の強さ (l)」×「露光時間 (s)」×定数
・数学的に正確な説明をするには定数の部分も考慮しなければなりませんが,それは次節に譲るとして,ここでは,一次関数と二次関数の関係について整理することとします。

図-7 露出計の指示値と露光量の関係

・図7からわかるように,露出計の指示値である「光の強さ」とカメラの設定に使う「露光量」とは単純には比較できない数値です。しかし,次の前提条件のもと,露出計の表示スケールを本来のルクスではなくて,露出値(EV値)で表示しています。
①シャッター速度を1秒と仮定する。
②感光体の感度をISO100と仮定する。
・こうすることによって,一定の条件つきながら,露出計から直にEV値を読みとることができるようになり,そのEV値をそのまま絞り値として設定すれば,適正露出になるということを示しています。これらの関係を図8に示します。

図-8 露出計の指示目盛の表示と露出値(EV値)の関係

・実際の露出計は,通常は感光体のISO感度に合わせてEV値目盛りのスケールを移動させ,得られたEV値から絞り値とシャッター速度の組み合わせを直接読みとれるようになっています。

■露出値(EV値)の使い方

・露出計の表示がEV0より大きくなる状況では,絞り値とシャッター速度の組み合わせ(露出値)によって,感光体に届く光の量をEV0相当まで落とす必要があります(その量が露光量であるということは前節で述べました。)。また,別の方法として,フィルム感度を落とすことによって,感光体の中庸濃度が上がり,その分,絞り(F)とシャッター速度(T)で光量を落とす量(露出値)を減らすことができます。
・強すぎる光を適正な値にまで下げる方法として,①絞り値(F)②シャッター速度(T)③感光体の感度(D),の3つの要素があります。
・絞り値(F),シャッター速度(T),感光体の感度(D)は,通常,次のステップ(段)で表現されます。

表-2 絞り値(F),シャッター速度(T),感光体の感度(D)の段

絞り値(F)
シャッター速度(T)
感度(D)
1.0
16秒
12,800
1.4
8秒
6,400
2.0
4秒
3,200
2.8
2秒
1,600
4
1秒
800
5.6
1/2秒
400
8
1/4秒
200
11
1/8秒
100
16
1/15秒
64
22
1/30秒
50
32
1/60秒
1/125秒
1/250秒
1/500秒
1/1,000秒
1/2,000秒
1/4,000秒
1/8,000秒
・相対値としての1EVは絞り,シャッター速度,感度のそれぞれ1段に相当し,絞り1段,シャッター速度1段,そして感度1段は,光量の制御効果において等しくなります。例として14EVは14段に相当し,この14段を,絞り,シャッター速度,感度で配分すれば良いわけです。