写真の露出:露出係数

ここまででEV値についてはおおよそ理解できたのではないかと思います。本節では,より厳しい条件下での露出決定においても,しっかりとした基礎にたった露出決定を実践できるように,露出値(EV値)を数値で捉え,計算によって,露出の配分や換算を行います。
ここでは,対数(logarithm) 指数関数を扱います。忘れてしまったという方のために,次に基本式を掲載しますので,思い出しておいてください。(数式はMathJaxを使用して記述しています。)

■対数

$x=a^y$ , $a>0$ , $a≠1$ であれば、$y=log_a x$ , $x>0$ ・・・対数の定義

$y$$a$ を底(ベース)とする $x$ の対数関数

$x$: 対数 $y$ の真数

ベースとして $10$ を使う場合を常用対数といい、$e=2.7182818\dots$ を使う場合を自然対数という。

$y=log_{10} x=logx\dots$ 常用対数(ベースの表記を省略することが多い。)

$y=log_e x = log_x\dots$ 自然対数(各工学分野においてはベースの表記を省略することがあるので常用対数との区別に要注意。)

$log_a a = 1$

$log_a 1 = 0$

$log_a a^n = n   n=1,2,3\dots$

$log_a (xy) = log_a x + log_a y$

$\displaystyle log_a \left(\frac{x}{y}\right) = log_a x - log_a y$

$log_a x^n = nlog_a x$

$log_a\sqrt[n]{x} = \frac{1}{n}log_a x$

ここでは常用対数しか使用しないので、$a = 10$ です。

■露出係数 (Ex)

露出値(EV)は,絞り値(F)とシャッター速度(T)によって決定されますが,実際にカメラの露出を設定するときは,感光体(フィルムあるいはデジカメのイメージセンサ)のISO感度(D)も考慮しなければなりません。
・シャッター速度についてはあらためて正確な定義が必要になりますが,ここでは,シャッター速度を露出時間(T)として定義します。
露出値(EV)に加えて感光体の感度を考慮した関数(Ex)を定義し,露出に関係する要素を統合的に扱うこととします。
関数(Ex)を次の式で定義します。

$E_x = F_x - T_x -D_x$ ・・・ (1)

$E_x$:露出係数を表す指数関数

露出計の視点で表現すると,光の強さを表します。また,露出値の視点でいうと,制限すべき光量を表します。実体としては一定の条件のもとEV値として使用します。

$F_x$:絞り値 (F) を変数とする指数関数

絞り値 (F) とはレンズの有効口径 (Φ) を焦点距離 (f) で割った数 ( 口径比 ) の逆数をいいます。有効口径は,正確には平行な光束を想定した形で定義されるのですが,簡単にいうと絞り装置の開口部の直径のことをいいます。

絞り値 (F) は次のようになります。

\[F = \frac{f}{φ}\]

ここで,$f$:焦点距離(mm)、$φ$:有効口径(mm)となります。

絞りを絞ると有効口径 $(φ)$ は小さくなり,そのため絞り値 (F) は大きくなって感光体に届く光の量は少なくなります。

絞りを通過する光の量は絞りの開口面積 $\displaystyle π\left(\frac{φ}{2}\right)^2$ に比例して増減する,すなわち,有効口径の半径の2乗 $\displaystyle \left(\frac{φ}{2}\right)^2$ に比例して増減することになります。このことは,同時に,絞りを通過する光の量は絞り値 (F) の2乗に反比例して増減することを意味しています。

\[E_ν = aπ\left(\frac{φ}{2}\right)^2 = aπ\frac{1}{4}\left(\frac{f}{F}\right)^2\]

ここで,"絞りを通過する光の量"という表現をしていますが,この""には時間を含まず,二次元的な面積の大小に関わる量のことを意味しています。
感光体に届く光の量を制限するためには絞り値 (F) を大きくする必要があります。そのため,関数 (Ex) に対してはプラスの項として組み込みます。

$T_x$:露出時間 (T ) を変数とする指数関数

一般的に露出時間のことを「シャッター速度」と表現します。しかし,正確には,「シャッター速度」は"速度"ですから単位は m/s ( メートル / 秒 ) になります。このままでは,露出値の算出には直接使用できませんから,単位を s (秒) とする「露出時間 (T )」を変数として使用します。意味合いとしては,「露出時間」は「いわゆる"シャッター速度"」の事をいいます。この後,「シャッター速度」という表現は「露出時間」の俗称として扱います。
このあたりをもう少し詳しく確認したい方はこちらをご覧ください。
感光体に届く光量を制限するためには露出時間を減らす必要があります。そのため,関数 (Ex) に対してはマイナスの項として組み込みます。

$D_x$:フィルム感度 (D) の相対値 (I ) を変数とする指数関数

フィルム感度そのものよりも,感度 ISO100 に対する相対値が問題になります。なぜなら,ISO100 を EV0 の基準値としているからです。従って,感光体の ISO 感度の ISO100 に対する相対値 (I ) を変数として使用します。ISO100のフィルムであれば,I = 1 となり,ISO400 のフィルムであれば,I = 4 となります。
感光体に記録される光量を制限するためには I を減らす必要があります。そのため,関数 (Ex) に対してはマイナスの項目として組み込みます。

■絞り値 (F) を変数とする指数関数 (Fx)

$F_x$:絞り値 (F ) を変数とする指数関数

絞りを通過する光の強さは絞り値(F)の二乗に反比例して増減します。F16 の場合は,絞りを通過する光の量は F1 の場合に比べて,16 の二乗分の 1 (すなわち 1/162 = 1/28 = 1/256)、写真の現場での一般的な言い方としては 1/250 に減少します。
F値の二乗値を,定数 2 を底とし,$F_x$ を指数とする指数関数で表現すると,

$F^2 = 2^{F_x}$ ・・・ (2)

両辺の常用対数をとって,

$logF^2 = log2^{F_x}$ ・・・(3)

$2logF = F_x log2$ ・・・ (4)

$\displaystyle F_x = \frac{2logF}{log2}$ ・・・ (5)

となります。
例:F16の場合は次のようになります。

$\displaystyle F_x = \frac{2log16}{log2} = \frac{2log2^4}{log2} = 8$ ・・・ (6)

各絞り値 F と Fx の対応関係は次のようになります。

表-3 絞り値 (F) と F を変数とする指数関数 (Fx) の値

絞り値(F)

Fx

1.0

0

1.4

1

2.0

2

2.8

3

4

4

5.6

5

8

6

11

7

16

8

22

9

32

10

ある絞り値 f1 に相当する関数 (Fx) と,別の絞り値 f2 に相当する関数 (Fx) の値の差が1であった場合,絞り値 f1 と絞り値 f2 の間を"1段"と称します。例えば,"絞りを1段開ける"とは,F5.6 から F4 へ,または,F2.0 から F1.4 へ絞り値を変更することをいいます。

■露出時間 (T) を変数とする指数関数 (Tx)

$T_x$:露出時間 (T) を変数とする指数関数

露出時間 (T) とはシャッターが開いてから閉じるまでの時間 (秒(s)) をいいます。
露出時間 (T) を,定数 2 を底 (ベース) とする指数関数 Tx で表現すると,

$T = 2^{T_x}$ ・・・ (7)

両辺の常用対数をとって,

$logT = log2^{T_x}$ ・・・ (8)

$logT = T_x log2$ ・・・ (9)

$\displaystyle T_x = \frac{logT}{log2}$ ・・・ (10)

例:シャッター速度(露出時間)が1/64の場合は,
$\displaystyle T_x = \frac{logT}{log2} = \frac{log\frac{1}{64}}{log2} = \frac{log1 - log64}{log2}= \frac{0 - log2^6}{log2} = \frac{0 - 6log2}{log2} = -6$
各露出時間 (T) と TXの関係は次のようになります。

表-4 絞り値 (F) と F を変数とする指数関数 (Fx) の値

露出時間(T)

Tx

64秒

-6

32秒

-5

16秒

-4

8秒

-3

4秒

-2

2秒

-1

1秒

0

2分の1秒

1

4分の1秒

2

8分の1秒

3

15(16)分の1秒

4

30(32)分の1秒

5

60(64)分の1秒

6

125(128)分の1秒

7

250(256)分の1秒

8

500(512)分の1秒

9

1,000(1,024)分の1秒

10

2,000(2,04)分の1秒

11

4,000(4,096)分の1秒

12

8,000(8,192)分の1秒

13

ある露出時間 t1 に相当する関数 (Tx) と,別の露出時間 t2 に相当する関数 (Tx) の値の差が1であった場合,露出時間 t1 と露出時間 t2 の間を"1段"と称します。例えば,"シャッター速度を1段遅くする"とは,250 分の 1 から 125 分の 1 へ,または,4 秒から 8 秒へシャッター速度を変更することをいいます。

■フィルム感度係数 (I) を変数とする指数関数 (Dx)

$D_x$:フィルム感度係数 (I) を変数とする指数関数

ISO感度100に対するフィルム感度係数を (I) とすると,ISO400 であれば,I = 4 となります。
Iの値を定数2を底とする指数関数で表現すると,

$I = 2^{d_x}$ ・・・ (11)

両辺の常用対数をとって,

$logI = log2^{D_x}$ ・・・ (12)

$logI = D_x log2$ ・・・ (13)

$\displaystyle D_x = \frac{logI}{log2}$ ・・・ (14)

例:ISO感度100の場合

$\displaystyle D_x = \frac {logI}{log2} = \frac{log1}{log2} = 0$ ・・・ (15)

各ISO感度と Dx の関係は次のようになります。

表-5 ISO感度とフィルム感度指数 (I) を変数とする指数関数 (Dx) の値

ISO感度

Dx

6,400

6

3,200

5

1,600

4

800

3

400

2

200

1

100

0

64

-0.6

50

-1

$E_x = F_x - T_x - D_x$ の式に、それぞれ、FxTxDx を代入すると、

$\displaystyle E_x = \frac{2logF}{log2} - \frac{logT}{log2} - \frac{logI}{log2}$ ・・・ (16)

$\displaystyle E_x = \frac{\displaystyle log\left(\frac{F^2}{T\times1}\right)}{log2}$ ・・・ (17)

$log2 = 0.30103\dots$ ・・・ (18)

となります。式(16)が露出を決定するときの最終的な式になります。
ISO 感度が100で,シャッター速度8分の1,絞りが F32 の場合,式(16) を念頭において,次のように考えることがてきます。
シャッター速度8分の1から
23
絞り値 F=32 から
210
両者の合計は
23+10=13
指数の合計は
13Ex

$\displaystyle E_x = \frac {\displaystyle 2log32 - log\frac{1}{8} - log1}{log2} = \frac{10log2 + 3log2 - 0}{log2} = 13$

感光体の感度を ISO100 として考えると,EXの値はそのまま EV 値として使うことができます。(16) 式を簡略化して,

$\displaystyle E_x = \frac{2logF - logT}{log2}$ ・・・ (19)

式 (19) の場合は,ISO 感度が変数として入っていませんから,関数 Ex の値は EV 値と同じになります。

$\displaystyle E_x = \frac{2logF - logT}{log2}$

あるいは,

$\displaystyle EV = \frac{2logF - logT}{0.301}$

となります。覚えやすい形にするといいでしょう。
以下,ISO100を前提として,EV値を使って話を進めます。ここまでの展開で気づかれた方もいるかと思いますが,次に表3と表4を並べてみますので,見較べてください。

表-6 EV値から表3と表4をみる

(表-3)

(表-4)

絞り値 (F)

EV

←→

露出時間 (T)

EV

1.0

0

64秒

-6

1.4

1

32秒

-5

2

2

16秒

-4

2.8

3

8秒

-3

4

4

4秒

-2

5.6

5

2秒

-1

8

6

1秒

0

11

7

2分の1秒

1

16

8

4分の1秒

2

22

9

8分の1秒

3

32

10

15分の1秒

4

30分の1秒

5

60分の1秒

6

125分の1秒

7

250分の1秒

8

500分の1秒

9

1,000分の1秒

10

2,000分の1秒

11

4,000分の1秒

12

8,000分の1秒

13

仮に,露出計の指示が,EV = 13 だったとします。この場合,表6をみて,絞り値(F)とシャッター速度(T)にEV値13を配分すればいいわけです。例えば,次のようになります。
F=22 (EV=9) と T=1/15 (EV=4)
EV値合計=13
風景など,三脚を使用して
F=8 (EV=6) と T=1/125 (EV=7)
EV値合計=13
通常の手持ち撮影で
F=2.8 (EV=3) と T=1/1,000 (EV=10)
EV値合計=13
滝やスポーツなど動くものを
市販の露出計には,EV値から,上記3つのパターンなどを瞬時に読みとれるガイド板がついたものがあります。
上の例では,1段刻みの場合で説明しましたが,実際には1/2段や1/3段の設定ができるカメラがあります。また,露出補正ができるカメラでも中間の"段"が使えるものがあります。

※※ 「シャッター速度」と「露出時間」 ※※

シャッター速度が速く(速度が大きく)なると露出時間が減少します。これは,絞りの値 (F) が大きくなると感光体に対する露出量が減少するのと同様の意味になります。
・しかし,一般的に,シャッター速度は 1/60,1/125,1/250,1/500,1/1000 のように表現します。実はここに問題があります。「俗称の"シャッター速度"」を表で表現すると次のようになります。
しかし,これだと,例えば4秒に比べて1/8000秒は数値的に小さいにもかかわらず,"大きい"といわれることになり,表現と実体が逆になってしまっています。写真の世界におけるの歴史的な経緯からこのような表現になっているのだと思います。
動きのある被写体を撮影する場合には,シャッターが開いている時間をできるだけ短くする必要があります。そのためには,レンズシャッターを例にとると,①シャッターが開いて,②一定時間経過後に,③シャッターが閉じる,という一連の動作をできるだけ短時間を終了させなければなりません。
この目的を達成するために,精密な機械部品を正確かつ"高速"で動作させるということが技術課題となり,研究開発や競争が行われてきたという歴史があります。
ここから,「高速」という言葉が使われるようになりました。高速すなわち"シャッター速度が速い","シャッター速度が大きい"という表現になります。1/500~1/8,000というような露出時間は「高速シャッター」開発競争の歴史そのままであり,とても"短時間露出"とか,"露出時間減少"というような"減る"とか"少ない"というような表現が入る余地は無かったといえます。つまり,歴史的に一貫して"高速=高性能"だったわけです。